2012-01-01から1年間の記事一覧

混線

夜。俺は暗い部屋に体を横たえて、目を閉じたり、開いたりしていた。時おり大きなため息をついたり、足をもぞもぞやったりしている。前の通りを行く車の音が、水の響きを帯びてきた。雨が降り出したらしかった。他に聞こえるものと言えば、自分の心臓の、規…

働きたくない

働きたくない! いやー、働きたくないですね。ええ、働きたいか働きたくないかで言えば、働きたくない。いえ、そんな設問など意味をなさないほど根源的に、僕は心の底から、働きたくない。 そもそも、働くことの意味なんて何があるというのでしょう。お金で…

異星滞在記

男が車を走らせていると、森に降り立つひとつの光が見えた。不思議に思った男は車を止め、光の方へと近づいた。 つるんとした銀色の、大きな塊。どうやら宇宙船のようだった。音もなく、風もない。極めて高度な文明の持ち主に違いないと男は思った。息をひそ…

悪魔の煙草

アパートのベランダで、男は煙をくゆらせている。彼は愛煙家であり、今はちょっと珍しい煙草を吸っていた。 ある日の帰り道、男はいつものように煙草を買った。カードをかざし、ボタンを押す。しかし取り出し口から出てきたのは、見たことのない銘柄の煙草だ…

事前情報

「おい、今度の仕事が決まったぞ。場所は三丁目、三角屋根の家。時刻は明日の14時46分、きっかりだ」 「盗みですね。久しぶりで、腕が鳴ります。暮らしぶりの良さそうな家だし、期待ができる。しかしなんでまた、そんな妙な時刻に」 「ある奴から聞いたんだ…

三月九日

朝、男は目を覚ました。カーテンの隙間から光が差し込み、コーヒーの香りがする。代わり映えのしない、いつもの朝だった。 「おはよう」 キッチンに立つ妻に声を掛ける。目玉焼きの焼ける音。 「あら、おはよう。今日も早いのね」 「うん、昨晩少し、仕事を…

ある依頼

薄暗い地下の階段を下ったその先に、男の事務所はあった。ある中年の紳士が、人目を気にしながら、扉に手を掛けた。 「ここか。例の、依頼を受けてくれるというのは……」 中年の紳士は、恰幅がよく、身に着けているものも高価そうだった。恐らく、企業の社長…

ボッ、という音。はじまりは、小さなアパートの小さな玄関だった。 夜の明けきらない時刻、雨音に混じる不思議な物音で、家の住人は目を覚ました。強盗でも入ったのだろうか。おそるおそる音のした方へ行くと、そこには開いた傘が無造作に転がっていた。 「…

債権債務

いつもと変わらない朝。今朝も手荒いノックの音が、部屋の中にうるさく響いた。 「おはようございます、お休みのところ申し訳ありません。今月分の支払いが、確認できませんでしたので」 債権者による取り立てだった。申し訳なさそうには到底見えない顔で、…

勝訴

最高裁判所小法廷。彼はある裁判の行方を、固唾を飲んで見守っていた。しかし彼は被告でも、原告でもなかった。関係者と言うことはできたかも知れない。彼は原告側を支援する立場で、裁判を傍聴していた。 彼の役割は、裁判の結果を、外で待つ仲間たちに伝え…

お人よしの幽霊

「あのう」 不意に投げかけられた声に、青年は立ち止まった。顔を上げると、電柱の下に一人の男が立っていた。切れかかった白熱灯にぼんやり照らされた顔は、顔見知りでもなければ、物取りでもなさそうだった。ただきまぐれに、声を掛けてきただけのような印…

風呂場の幽霊

ただならぬ気配と、胸騒ぎ。布団に入ったまま、僕は目覚まし時計を手繰り寄せた。 午前二時。言わずと知れた、丑三つ時だった。 そういった経験に全く乏しい僕ではあったが、今がその時であるのは直感的に分かった。 「うらめしや…」 その声は、風呂場から聞…

今考えた新しい相合傘

※絵はりっつさんに描いてもらっています。いつもありがとう!

最愛の人

僕は愛する人を失った。しかしどんなに思い出そうとしても、彼女の顔が浮かばない。目や、口や、鼻。そのどれも僕の心を捉えて離さなかったはずなのに、彼女の顔にまつわる一切を、僕は思い出すことができなくなっていた。 「ははあ、それは心理的なショック…

隣の客はよく柿を

隣の客はよく柿を食う客だった。そして何より、息を飲むような美人だった。 「どうして柿を?」 彼女は答えず、ただこちらを見て涼やかに微笑んだ。ドキリとした。そしてなんだか可笑しくなって、アハハと馬鹿みたいに笑って頭を掻いた。この時すでに、僕は…

熱湯の威力

ピジョン マグマグ トレーニングストロー出版社/メーカー: ピジョン発売日: 2011/02/18メディア: Baby Product クリック: 13回この商品を含むブログ (1件) を見る これ、子どもがいつも使ってるやつなんですけど。よく見ると、内部にくの字になってるストロ…

神の一部

「わしは神を作るぞ」 怪しげな装置がひしめく地下室で、年老いた博士が助手に告げた。 「ははあ、今度は毛生え薬のたぐいですか。確かに需要はありそうだ」 「違う、神だよ。GODだ。わしは神を作ろうと思っているのだ」 「神とは驚いた。確かに博士の頭脳は…

ある老人の回顧

私は十分生きました。これまで生きてきたうちには楽しいことも辛いことも、たくさんあったように思います。そんな思い出たちが、つい昨日のことのように思い出されるのです。私も、歳を取ったのかも知れません。 私には産みの親がありません。こんなことを言…

平成24年1月31日の日記

仕事がひと段落ついたので、3時から休み。スタバでコーヒー(S)を買う。レシートをもらわずに二階に上がろうとするが、レジカウンター越しに「あ、レシート」の声。リフィル(おかわり)の時にレシートが使えるのだった。礼を言って紙切れをもらい、席を探…

子どもセンサー

今日子どもが、初めてバナナを剥いて食べました。 いや、バナナは剥いて食べるもんだろ! って話なんですけど、これがこと一歳児にとってはそうでもなくって、それまで剥いて食べさせてあげていたので、最近までずっと、皮付きのやつを渡してあげても「…(無…

エリート

エリート Ctrl+Alt +エリート Ctrl+Alt+エリート ※いつものように、絵はりっつさんに描いてもらってます! いつもありがとう!

6年越しのシガーソケット

思い込みってすげえな、というか、6年がかりの思い込みがきれいさっぱり打ち砕かれた、という話をしたいのですが、あの。シガーソケットってあるじゃないですか。どの車にも付いてる機器ですけれどもね。機器なのかな、まあ、車にはそういう部分があります…