事前情報

 「おい、今度の仕事が決まったぞ。場所は三丁目、三角屋根の家。時刻は明日の14時46分、きっかりだ」

 「盗みですね。久しぶりで、腕が鳴ります。暮らしぶりの良さそうな家だし、期待ができる。しかしなんでまた、そんな妙な時刻に」

 「ある奴から聞いたんだ。ちょうど一年前のその時刻、やつらの仲間がばたばた死んだそうだ。それを思い出したりするとかなんだとかで、その時刻から一分間、やつらは全員動かない。目も、つむったままなんだそうだ」

 「ううん……ますます分からなくなってきましたよ。しかし、それが本当なら、我々のやりたい放題というわけですね」

 「そうだ、だが、時間は一分しかない。事前に、間取りと経路は頭に入れておけ。手早くやるんだ」

 「分かりました。ところで親分、『ある奴』ってのは、どこのどいつなんでしょう」

 「ネズミさ」

 「ネズミ」

 「ああ、そうだ。暇つぶしに追っかけて、飽きたから食っちまおうと思ったんだが、何やら物知り顔で『俺を殺すと損をする』なんてことを言いやがる。ネズミのくせに生意気だったが、せめてもの情けと思って聞いてやったのさ。まさかネズミから、こんなネタが聞けるとはね。おかげでサンマでもなんでも、盗り放題って寸法さ」

 「さすがは親分。寛大なうえに、抜け目がない。ワクワクして、眠れなくなりそうです」

 「それはいかん。準備をしたら、早く寝るんだ。寝坊をしてしくじったら、元も子もないからな」

 「はい、そうします。おっと、そろそろ日付も変わるころですね。どうりで眠いわけだ。それじゃあ明日、12日。集合は現地で」

 「ああ、ぬかるなよ」