最高裁判所小法廷。彼はある裁判の行方を、固唾を飲んで見守っていた。しかし彼は被告でも、原告でもなかった。関係者と言うことはできたかも知れない。彼は原告側を支援する立場で、裁判を傍聴していた。 彼の役割は、裁判の結果を、外で待つ仲間たちに伝え…

「あのう」 不意に投げかけられた声に、青年は立ち止まった。顔を上げると、電柱の下に一人の男が立っていた。切れかかった白熱灯にぼんやり照らされた顔は、顔見知りでもなければ、物取りでもなさそうだった。ただきまぐれに、声を掛けてきただけのような印…

ただならぬ気配と、胸騒ぎ。布団に入ったまま、僕は目覚まし時計を手繰り寄せた。 午前二時。言わずと知れた、丑三つ時だった。 そういった経験に全く乏しい僕ではあったが、今がその時であるのは直感的に分かった。 「うらめしや…」 その声は、風呂場から聞…

※絵はりっつさんに描いてもらっています。いつもありがとう！

僕は愛する人を失った。しかしどんなに思い出そうとしても、彼女の顔が浮かばない。目や、口や、鼻。そのどれも僕の心を捉えて離さなかったはずなのに、彼女の顔にまつわる一切を、僕は思い出すことができなくなっていた。 「ははあ、それは心理的なショック…

隣の客はよく柿を食う客だった。そして何より、息を飲むような美人だった。 「どうして柿を？」 彼女は答えず、ただこちらを見て涼やかに微笑んだ。ドキリとした。そしてなんだか可笑しくなって、アハハと馬鹿みたいに笑って頭を掻いた。この時すでに、僕は…

ピジョン マグマグ トレーニングストロー出版社/メーカー: ピジョン発売日: 2011/02/18メディア: Baby Product クリック: 13回この商品を含むブログ (1件) を見る これ、子どもがいつも使ってるやつなんですけど。よく見ると、内部にくの字になってるストロ…

「わしは神を作るぞ」 怪しげな装置がひしめく地下室で、年老いた博士が助手に告げた。 「ははあ、今度は毛生え薬のたぐいですか。確かに需要はありそうだ」 「違う、神だよ。GODだ。わしは神を作ろうと思っているのだ」 「神とは驚いた。確かに博士の頭脳は…

私は十分生きました。これまで生きてきたうちには楽しいことも辛いことも、たくさんあったように思います。そんな思い出たちが、つい昨日のことのように思い出されるのです。私も、歳を取ったのかも知れません。 私には産みの親がありません。こんなことを言…