神の一部
「わしは神を作るぞ」
怪しげな装置がひしめく地下室で、年老いた博士が助手に告げた。
「ははあ、今度は毛生え薬のたぐいですか。確かに需要はありそうだ」
「違う、神だよ。GODだ。わしは神を作ろうと思っているのだ」
「神とは驚いた。確かに博士の頭脳は偉大だ。僕も僕なりに、あなたを支えた自負はある。しかし、そんなもの、本当に作れるのでしょうか」
「我々の科学力、技術力は君のよく知るところだろう。だからこそこれまで、政府や財界、裏の世界の者たちまで、我々にこぞって依頼をしてきたのだ。タイムマシンや化学兵器、新型の宇宙船までありとあらゆるものを作ってきた。だかそれももうむなしい。そろそろ、自分の作りたいものを作りたいのだ」
「しかし博士、神なんて既にあるじゃありませんか。世界各国に宗教があり、それぞれの神がある。あなたの言う神とはいったいどれなのです」
「そこが問題なのだよ。わしは完璧な神を作りたいのだ。ある者にとって神で、別な者にとってもそうであるような。そのためには、全人類の神を集める必要がある」
「だんだん分かってきましたよ。そうか、今世界中で『神』と呼ばれるものは部分だ。博士は全体をお作りになろうとしている」
「察しがいいな。さすがはわしの助手だ。さあ、やろう」
助手は頷くと、さっそく準備に取り掛かった。構想を練り、図面に落とし、博士の指示に従って、必要なものを手際よく揃えていった。
「博士、ご指示の材料を持ってきました」
「うむ、しかしこれは、ただの中年のおやじのようだが…」
「ええ、私もはじめは胡散臭いと思ったのですが、これもれっきとした、神の『部分』足りえるものです」
「こんなひげもじゃで、太った、のんだくれのおやじがかね」
「はい、いかにも」
「それで、これは神のどこになるんだ」
「手です」