2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

銀行強盗

昼下がり。気だるい空気に包まれていた銀行内に、鋭い一発の銃声が響いた。 「動くんじゃねえ」 帽子を目深にかぶった一人の男が、火薬の臭いの残る拳銃を行員に突きつけていた。もう片方の手には、大きく口の空いた、ショルダーバッグが握られている。 「こ…

もうたくさんです

さーて、今日もネットで便利に買い物をしようかな! 何買おう! 和風だしとかかな! 和風の、だしとかかな! あ、アマゾンさんだこんにちはー。 え? えー! ええー! いきなり何言ってんですか。ていうか女性だったんですか。びっくりするわ。出会いがしら…

混線

夜。俺は暗い部屋に体を横たえて、目を閉じたり、開いたりしていた。時おり大きなため息をついたり、足をもぞもぞやったりしている。前の通りを行く車の音が、水の響きを帯びてきた。雨が降り出したらしかった。他に聞こえるものと言えば、自分の心臓の、規…

働きたくない

働きたくない! いやー、働きたくないですね。ええ、働きたいか働きたくないかで言えば、働きたくない。いえ、そんな設問など意味をなさないほど根源的に、僕は心の底から、働きたくない。 そもそも、働くことの意味なんて何があるというのでしょう。お金で…

異星滞在記

男が車を走らせていると、森に降り立つひとつの光が見えた。不思議に思った男は車を止め、光の方へと近づいた。 つるんとした銀色の、大きな塊。どうやら宇宙船のようだった。音もなく、風もない。極めて高度な文明の持ち主に違いないと男は思った。息をひそ…

悪魔の煙草

アパートのベランダで、男は煙をくゆらせている。彼は愛煙家であり、今はちょっと珍しい煙草を吸っていた。 ある日の帰り道、男はいつものように煙草を買った。カードをかざし、ボタンを押す。しかし取り出し口から出てきたのは、見たことのない銘柄の煙草だ…

事前情報

「おい、今度の仕事が決まったぞ。場所は三丁目、三角屋根の家。時刻は明日の14時46分、きっかりだ」 「盗みですね。久しぶりで、腕が鳴ります。暮らしぶりの良さそうな家だし、期待ができる。しかしなんでまた、そんな妙な時刻に」 「ある奴から聞いたんだ…

三月九日

朝、男は目を覚ました。カーテンの隙間から光が差し込み、コーヒーの香りがする。代わり映えのしない、いつもの朝だった。 「おはよう」 キッチンに立つ妻に声を掛ける。目玉焼きの焼ける音。 「あら、おはよう。今日も早いのね」 「うん、昨晩少し、仕事を…

ある依頼

薄暗い地下の階段を下ったその先に、男の事務所はあった。ある中年の紳士が、人目を気にしながら、扉に手を掛けた。 「ここか。例の、依頼を受けてくれるというのは……」 中年の紳士は、恰幅がよく、身に着けているものも高価そうだった。恐らく、企業の社長…

ボッ、という音。はじまりは、小さなアパートの小さな玄関だった。 夜の明けきらない時刻、雨音に混じる不思議な物音で、家の住人は目を覚ました。強盗でも入ったのだろうか。おそるおそる音のした方へ行くと、そこには開いた傘が無造作に転がっていた。 「…

債権債務

いつもと変わらない朝。今朝も手荒いノックの音が、部屋の中にうるさく響いた。 「おはようございます、お休みのところ申し訳ありません。今月分の支払いが、確認できませんでしたので」 債権者による取り立てだった。申し訳なさそうには到底見えない顔で、…