短い箸の話

 僕は勤め人であって、昼は家から持って行った弁当で済ませている。夜の残りを詰めて朝にちょいちょいと足したような、味も素っ気もない弁当だけれども、昼食を楽しく済まそうなどという欲望が限りなくゼロに近いので、一向に構わないのである。

 ついでなのでもうちょっとこの弁当について説明すると、二段重ねの、シンプルな弁当箱に入れている。下段が白飯で、上がおかず。これにインスタントの味噌汁を添えれば、昼食の完成だ。職場にはレンジがないので、冬場は冷たい飯を頬張ることになる。前述のように昼食についての期待値が抜群に低いので、これも問題にならない。

 ただちょっと、米が冷たいのには困ることもあって、都合二回ほど、箸を折っている。冷たい米は硬いのだ。割り箸ならいざ知らず、弁当箱に内蔵された専用の箸だったりするから困る。一回目は、仕方がないので弁当箱そのものを買い替えてしまった。他の部分は至って健在であったので、悔しさはひとしおである。

 二回目はつい最近で、春先にしてはまだ少し寒い日のことだった。ポキリと折れて、仕方がないのでその日は割り箸を使った。家に帰って愚痴り、今後の方針を検討していると、妻が自分の箸を使うがよいと、一回り小さく短い箸をくれた。自分の分は、もう一膳あると言う(おそらく、出産で入院した際に買い揃えたものと思われる)。

 乗り気はしないものの弁当箱の上下段を分け、その隙間の箸置きスペースに妻の箸を入れてみると、ちょっと長さは足りないが、うまい具合に収まってくれたのだった。


 そんなこんなで、僕は毎日、ちょっと短い箸で昼食をとっている。なんの楽しみもない昼の時間に変わりはないが、弁当を開けて、箸置きに居心地が悪そうにしている短い箸をみるたび、少し滑稽な気持ちになる。