生きろそなたはGalaxy

 いやあ金環日食金環日食でしたね。皆さん見ましたか? 僕は見ました。厳密には、僕の住む仙台では金環にならなかったものですから、「部分日食を見た」ということになりますが。

 というか本来僕はこういう、天体ショーといいますかなんといいますか、そういったものにあまり興味がなくて、これまでの人生で訪れた数々の月食も日食も、なんとか流星群も全部、ふーん、そうなの、という感じで通り過ぎてきました。どうですかクールでしょう。クールと形容するほかない、といった風情でしょう?

 違うんです。ホントは、見たかったんですよ。告白します。すげえ見たかった。でもなんとなーく、気恥ずかしくて。多分カッコつけてたんだと思いますね。「沈着な俺」を意識していたこともあったかも知れない。一過性のイベントに右往左往しない、そういうのがカッコいいんだ、みたいなね。心底殴りたいですね。今思うとね。「ホントは外に飛び出して、夜空のきらめきやぬるりと欠ける太陽や月、そして不穏で神秘な空気に胸をざわつかせたかったんだろうお前は!!」って言いながら殴りたいですね。正義の拳を受けたかつての僕は、薄れゆく意識の中で安易なニヒリズムを悔い改めながら、殴る口上が長い、と思うことでしょう。

 でまあ、きっかけを失い完全にひねくれた大人と化した僕でしたが、そんな僕に訪れた転機が嫁でありまして、嫁は、こういうブームにチャッチャカ乗ってホイホイ愉しむタイプの人なのです。よって今回も、日食が始まる時間になったらパジャマ姿でベランダに飛び出して行きました。手ぶらで。手ぶらで行っちゃダメだろう……と思いながら見ていたら、案の定「アッ……!」って言ってました。目を押さえて、「アッ……!」って言ってました。サングラスとか、あったでしょう? と部屋の中から声を掛けたら、電球の点いたような顔をして、ドレッサーからセレブのするようなグラサンを見つけてきたのでした。

 前置きが長くなりましたが、そのあと僕も、そのセレブグラサンを借りて日食を見た、というのが今回のお話です。いやあ、欠けてた欠けてた。日が食されていましたねー。面白いよ。もっと早く素直になっていればよかった。嫁には感謝をしています。

 そして日食がすべて終わったあと、嫁が興奮冷めやらない様子で「サングラスは全然眩しい! 次はちゃんと日食グラスを買わなくては」なんて泥縄的なことを喜々として言うものですから、おいおいその時僕らは50近いぜ……なんて苦笑しながら、僕は、そうだねと答えたのです。