歯医者

「じゃあ削っていきまーす」

「お願いします」

「痛かったら、右手を挙げてくださいね」

「痛いんですか?」

「深くは削りませんが、念のため」

「分かりました」

「ああ、それから単に右手を挙げたいときも、右手を挙げてもらっていいですから」

「え?」

「ですから、途中で単に右手を挙げちゃいたくなったときも、遠慮なく挙げてもらっていいですから。右手」

「挙げたくなりますかね。挙げたく、なるもんですかね」

「分かりませんが、念のため」

「紛らわしくなりませんか」

「そこらへんは、大丈夫です」

「だって、どっちも右手ですよ」

「こっちで判断しますから」

「分かりました」

「プロですから」

「あの」

「なんですか」

「たとえばですよ、たとえばですけど、左手を挙げたくなったときは、どうすればいいですか」

「右手を挙げて教えてください」

「紛らわしくなりませんか」

「こっちで判断しますから、プロですから」

「分かりました」