深夜の別れ話
高層マンションの一室、深夜。僕は彼女と激しく口論していた。
「いい加減にしてくれ。もう、ここには来ないでくれないか。お願いだから」
「いやよ、どうして。そんなのってないわ」
こんなことを、何度繰り返したことだろう。疲労と嫌悪の色を濃くしていく僕とは対照的に、彼女はますます激昂していった。そして口論は、いつものやりとりへ終着する。
「……いいわ、死ねばいいんでしょう。あなたがそんなにあたしと別れたいなら、今すぐそこから、飛び降りてあげる」
「そうかい、勝手にしてくれ。どうせ口だけさ。君はまたそうやって、明日には、平気な顔をして僕の前に現れる。どうかしてるよ。だいたい……」
僕の言葉を聞き終えることなく、彼女はベランダに飛び出していく。駆け寄ってカーテンを開けるが、彼女の体はもう、手すりの向こう側へと投げ出されていた。
白いワンピースの裾が、夜の闇にひらりとひるがえるのを見た。
ガラス越しの夜景を深い溜め息で白く曇らせながら、僕はクレセント錠を開けた。こんなことを、いったいいつまで繰り返せばよいのだろう。ガラス戸をゆっくり横に滑らせると、ベランダの向こうから、ひんやりとした夜風が吹き込んできた。