喫茶店での二人の会話

「コーヒーが本当に美味しいのはね」
熱いカップを唇から離し、湯気の向こうの彼女はまっすぐに僕を見つめている。
「はじめの三分だけなんだって」

そうかもしれない、と思った。
彼女と知り合って、もう二年になるだろうか。いや、三年かな……? とにかく、今の僕には彼女の言いたいことが、なんだか分かるような気がしていた。

それから、この大きくもない喫茶店で、取り留めもない話をした。
出会ってすぐの夏のこと、初めて行った旅行のこと、そして最近の、本当に些細な二人の出来事なんかを。僕も話したし、彼女も話した。太陽は、すっかり真上に昇っていた。

温度を失い、小さなカップにわずかに残った黒い水面。店の控えめな照明が、ゆらゆらとそこに浮かんでいる。彼女はぐいと飲み干して、外を眩しそうに見つめながら、屈託なく笑った。
「でも冷めたコーヒーだって、おいしいよねえ」
そうかもしれない、と僕は言った。