取得時効
あるマンションの一室で、若い男女が会話をしている。
「取得時効は何年だったかな」
「十年よ、有過失なら二十年」
「では僕が、君を占有して二十年を過ごしたら、君は僕のものになるというわけだ」
「そうね。あら、でもそれは私だって同じことよ。私が二十年間あなたを占有すれば、あなたは私のものになる」
「僕は君の、君は僕のものになるというわけか」
「素敵ね」
「ああ」
そして月日は流れ、二人が出会ってから間もなく二十年が経とうとしていた。
「いよいよだな」
時計の針を見つめながら、互いに少しだけ皺の増えた男女は、うっとりと肩を寄せ合っていた。
「ねえ」
あと十数秒といったところで、女は男に言い放った。
「私はやっぱり、私のものよ。私が私のものじゃなくなるなんて、やっぱりそんなのおかしいもの」
男は信じられないといった様子で、目を白黒させている。カチリという秒針の音が冷酷に響いた。
「ふふふ、さあ二十年よ。これであなたは私のもの。私は当然、私のものよ。これからどうぞよろしくね」