ショートコント、居酒屋

「あ、レモンしぼっていい?」
「うん」
「義父に」
「はい?」
「レモン、しぼっちゃっていいよね」
「唐揚げに?」
「義父に」
「ダメだよ!」
「めんどくさいし、もう全部絞っちゃうからレモン。義父に」
「聞けよ、ダメだよ」
「ダメなの?」
「なんで僕の父親にレモンかけるの! 意味が分からない! 理解に苦しむと言わざるを得ない!」
「なんか、ホラ、さっぱりするかなー、って」
「十分! 十分こざっぱり! してるでしょう! 僕の父さん、ホラ!」
「えー……」
「うっわ初めて見たわ、人の一親等にレモン絞ろうとする嫁、初めて見たわ」
「あ、そっかかけない派だ? 義父にレモン、かけないタイプなんだ?」
「そうだね、そういうタイプがあるなら、そうだね」
「じゃあ実父にかけるわ」
「ダメ!! だよ!!」
「なに、実父にもかけない派〜?」
「僕の義父にもあたるから! ね、ほら僕、義父にレモンかけないタイプじゃない? ってコラー!」
「ブレないね〜」
「イラッとする顔で人を指差すな!」
「そういうとこも好きよ」
「…」
「あなたって昔からそう。そういうとこ、好きよ」
「…僕も好きだよ」
「…唐揚げ、冷めちゃったね」
「また頼めばいいよ」
「そうね、出来たての唐揚げが来たら、そしたらあなたが絞って頂戴」
「うん」
「義父に」
「ダメだよ!!」