徳川パーキング

 一昨年の夏に引っ越してからこっち、車庫証明の住所が前のところのままだったのを車検の時に指摘されまして、まぁ、そのままでも別にいいかな、なんて思っていたんだけれども「何かあったとき困りますからね、変更しときましょう!」という殺し文句に負けて、まぁ、負けまして、結局手続きをすることになった。


 で、警察に提出する書類をもらって昨晩こちょこちょ書いていたんですけど、その中の一枚に自宅周辺の略図を描く書類があって、はたと手が止まった。あー、久々に思い出した。俺は絵が下手なんだった。


 とは言ってももう大人ですし、そんなおかしなことにはなるわけがない! とタカをくくって描いたら、やっぱり下手だった。ダメだった。時が解決してくれる問題じゃなかった。家と駐車場と駐輪場の位置関係を、定規とペンで描いただけなのに、宝の地図みたいになった。どうしてこうなったのか自分でもよく分からない。こんなん下手に書く方が逆にスキルが要るんじゃねぇか、みたいな感じですけど、まぁ、それをやってのけてしまうのが天才の辛いところでして、ええ、天才の、天才たる所以でして。えへへ。うふふ。笑え! さあ笑え! アッハッハ!


 まぁでも、この絵が何千年かして、ふとした拍子に誰かに発見されたら大騒ぎになるかもしれん、というのはある。後世の権威ある考古学者たちが、解釈を巡って激論を交わす。「これは住居だ!」「いや、唯一神を祭った祭壇だ!」  ただの駐車スペースなのに、です。命知らずのトレジャーハンターが、こぞって穴を掘り、まだ見ぬ財宝を目指すかもしれない。「埋蔵金や!」「埋蔵金やで!」  どんなに掘ろうとそこは、ただの駐車スペースなのに、です。これは居たたまれないですよ。あんまり居たたまれなくて、草葉の陰から妨害するわ。もうそんなことは止めるんだ! って。勢い余って重機とか倒しちゃうかも知れない。怨霊か。


 思えば徳川埋蔵金とか、あれもね、全っ然出ないじゃないですか。昔はやいやい騒がれていたけど、一向に出たという話を聞かない。なんだか、駐車スペースの匂いがする。