そして二人は恋に落ちる、ことはない

 職場に噛みあわない人がいるのだ。

 何が噛み合わないって、電話だ。その人とはよく電話でやりとりがあるんだけど、電話を切るタイミングがまったくもって劇的に噛み合わない。いつ切って良いのやら全然わからなくて、「あっ、えっと、じゃあ失礼しまー、え? はいどうも、はい、はーぃ……ガチャン」みたいなことを毎回やっている。ドッと疲れる。

 なかなか電話を切れないなんて、遠距離恋愛の二人かよ! みたいなね、「今日はお前が切れよ」「いやよそっちが先に切って」みたいな、「じゃあ、おやすみ」「うん…」みたいな感じで違うそうじゃない。愛はないのだ。全くない。でもその人のことは別に嫌いじゃないし、というかむしろ好きなんだけど、電話だけは抜群に相性が悪い。

 会話を終わらせるのには、それを匂わす特定の口調とか語彙とかがあって、それをうまく感じ取ることで会話は終了に向かう。ネイティヴなら無意識にそれができるけど、会話を切るには実はスキルが必要です。というのは大学の専攻でのイロハだった。でもこの場合お互いネイティヴだし、そもそも他の人とは問題なく電話できる。これはもう、相性の問題だろうと思う。

 多分その人が道の向こうから歩いてきたら、俺が右に避けて、彼女も左によけて、またお互い逆に動いてあーもう! みたいになる気がする。