満月の夜は何かが目を醒ます

 凛とした秋の夜風、夜を照らす冷たい月の光。今日は中秋の名月ですね。やけに夜が明るいのではたと気づいた。危なかった。あそこで気づかなかったら、PC立ち上げた時にグーグルのトップページで初めて気づかされるところだった。風流のかけらもない。

 ときに満月は人の心を乱す。仄暗い心の奥底に眠っていた妖怪が、青白い月光によって目を醒ますという。人は誰しも、満月の夜に穏やかではいられない。かくいう俺も、今夜は魑魅魍魎と化した。そしてこてんぱんにやられた。

 兄の子供たちと、ショッピングセンターのキッズコーナー的な場所で遊んだのです。折しも他に遊ぶ子供はなく、その場に居合わせたのは兄、甥っ子、姪っ子、俺、の四人のみ。思う存分暴れられると見た甥は嬉々として叫んだ。「出たな妖怪! やっつけてやる」云々。言うが早いか正義の鉄拳と正義の膝蹴りが妖怪候補たちの柔肌を的確に捉えた。

うぐぅ

 満月は人の心を乱す。仄暗い心の奥底に眠っていた妖怪が、青白い月光によって目を醒ますという。このクソガキ! 大人の本気ってやつを分からせてやる! 大人の本気を誇示すべく、大人気なく我々は妖怪と化した。蟷螂拳の構えを取り、ジリジリと間合いを詰める。「良くぞ見破った、しかし今日が貴様の命日じゃキシャシャシャ」

 というやり取りに始まり、小一時間ほど死闘は続いた。しかし、本当に、子供はなんであんなに元気なのだ。もしくは大人はなんでこんなに脆弱なのだ。四捨五入して三十歳の二人は、ヒイヒイ言ってすぐに床に突っ伏した。運動不足かな。

 それでも甥と姪はごっこ遊びを続けたいようで、「どうした妖怪!」「妖怪妖怪!」としつこく突っかかってくるので、「ちがいますー、妖怪じゃありませんー人間ですー」「妖怪の子の君たちだって妖怪ですー」などと言って設定をぶちこわしてやった。なんという鮮やかな勝利。子供風情には手の届かぬ、メタなレベルでの勝利だ。本当に大人気ない。