そして彼は風見鶏になった


 彼は最愛の人を失いました。


 悲しみに暮れ、声も涙も出尽くした彼の心に唯一残ったものは、恐怖でした。次に待ち受ける、自らの死への恐怖ではありません。彼は、彼女を忘れてしまうことが怖かったのです。


 彼は、彼女の亡骸の傍で、来る日も来る日も立ち続けました。食べず、眠らず、得意であった歌を歌うこともやめ、雨の日も、風の日も、彼は、一歩も動くことはありませんでした。彼にできることは、それだけでした。彼女を忘れないために彼ができることは、一歩も動かないことだけだったのです。


 神様が、もう骨だけになってしまった雌鶏に、寄り添うようにして息絶えている雄鶏を見つけたのは、それから数日後のことでした。