もっさりトマト

 スーパーで何気なくトマトを手に取ったら、カビが生えていた。

 なんかね、こう、カビってこっそり生えるもんじゃないですか。「所詮、俺ら日陰者っすから…」みたいな感じで、生えるじゃないですか。なんか、裏とかに。だけど今日見たトマトのやつは、俄然自己主張していた。俺が俺が、って感じで繁茂していた。

 でも意外と、それを見つけた瞬間って、責任者出て来い! ってならないもんだなー、というか。怒りよりも、え、本物? みたいな、え、こういう商品? みたいな、疑いとも戸惑いともつかない変な気持ちになった。安全管理社会の弊害でしょうか。なんか、カビが生えた食品なんて有り得ない、そんなものが売られている筈がない、よね? みたいな。

 だのにこのトマトである。堂々と店頭に並んでいる、妙にふっさりしたこのトマトは何か。お前は何だ。いくらトマトに訊ねたところで、それはただふっさりしたトマトであるだけなので、店のおばちゃんに「これ、何ですか?」って訊いたら、おばちゃんは「ああ、これはね、違うの、違うのよ…」ってブツブツ言いながら、トマトを引っ掴んでバックヤードに消えていった。